5 つくば方式マンションの長寿対策

第一号住宅の設計をみてみよう

 つくば方式では、スケルトン構造の採用により長寿命化をはかっている。具体例をみてみよう。

 第一号住宅の特徴の一つは、大きな空間を確保できるようにしていることだ。

 壁を取り外すと、一五〇平方メートルの広い空間が出現する。これなら、オフィス利用としても可能である。この空間を壁で仕切って、一〇〇と五〇の二つの住宅に分けている。この五〇平方メートルの空間は、上の階とつなげて合わせて一〇〇平方メートルの家にしている。スケルトン住宅は、上下をつなげることも可能なのだ(図5参照)。

 もう一つの特徴は、排水パイプが玄関側とベランダ側の二か所に設置できるようになっていることだ。家の自由設計に合わせて、好きな方を使用すればいい。もし使わない場合、コンクリートに穴が開いているので、将来、改装する時に、そこにパイプを増設することもできる。

 先の山口さんの家では、南側にお風呂を設置したが、これができるのも、南のベランダ側に排水パイプが設置できるようになっているためだ。

 このような設計に加えて、質の高いコンクリートを使ってスケルトンの寿命を延ばす努力をしていることもポイントの一つだ。

第二号住宅の逆梁にはビックリ

 第二号住宅をみてみよう。「逆梁(ぎゃくばり)」と呼ばれる技術が使われている。逆梁というのは、図13のように、梁と床の位置関係が逆になっているものだ。こうすると、マンションでありながら、すべての階に床下ができる。しかも、四〇センチメートル以上の深さとなっている。



 この床下を使えば、パイプの設置は自由自在だ。トイレもお風呂も、好きな場所にレイアウトできる。共用の縦パイプは、廊下に一か所あればよい。そこから床下を通って遠くまで横に引くこともできるし、万一詰まっても床下に潜れば対処できる。

 これは、一戸建と同じだ。つまり、共用の縦パイプは、ちょうど道路に埋まっている公設パイプにあたる。そこから横引きして家の設備につながっているという仕組みになる。

 間取りの自由設計ができ、しかも将来の交換が容易なインフィルは、このような技術に裏付けられているのである。

 この考え方をさらに進めると、人工土地型の住宅というイメージになる。つまり、空中に「土地」があり、そこに一戸建住宅を建てるイメージだ(図14)。土地はスケルトンで、家はインフィルの究極の姿というわけである。これに近い形態を実現したものに、大阪ガスの実験住宅がある。建築コストがかかりすぎるため一般化は無理だが、スケルトン構造の理念を示すものとして一見の価値があろう。



つくば方式でマンションのスラム化防止

 つくば方式によると、なぜ、スケルトン構造が採用しやすくなるのだろうか。その秘密は、前述したように、借地により土地費を下げている点にある。

 こうすると、仮に建築費が高くなっても、住宅の総額を下げられる。つまり、スケルトン構造を採用してもユーザーが購入できるのだ。

 もう一つのメリットは、戸数を詰め込まなくても成立する点だ。例えば、階高を高くしたために階数が減り、戸数が二割減ったとしよう。分譲マンションであれば、一戸当たり二〇〇〇万円くらい土地費を負担しているから、戸数減分の二割増しで販売価格が四〇〇万円上がる。これはローンに換算すると月二万円の支払いに相当するから、ちょっと痛い。

 しかし、つくば方式であれば、借地料は土地費の二パーセント弱(年間)だから、増額分は月当たり六〇〇〇円ほどになる。六〇〇〇円の上昇は、二万円に比べればずっと小さい。つまり、それだけ影響が小さいということだ。この程度のアップならば、高い階高のスケルトン構造にして気持ちよく住むという選択がしやすいだろう。

 このように、つくば方式は借地の効果によって、建築費の上昇を吸収し、高い階高の建物を可能にしている。つまり、スケルトン構造をユーザーが容易に採用できる条件を整えている。

 その結果、一〇〇年住宅が普及すれば、省資源化に寄与することはもちろん、マンションのスラム化防止にも役立つのである。




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