2 コーポラティブはどうして停滞したか

土地探しが最大のハードル

 マンション適地の購入が最初のハードルだ。特に、バブル経済が始まって以降は、個人の集まりにすぎない組合が土地探しをしても、まず成功する見込みはなかった。これが、停滞の大きな理由だ。

 土地探しには、二つのルートがある。一つは、事業企画者となる専門家が土地を探し、その後で入居者を募集するものだ。もう一つは、最初に入居者が集まっており、みんなで土地探しをする場合だ。このいずれも、土地購入資金の手当に苦労する。

 まず、銀行は、法人格をもたない個人の集まりに融資することに躊躇する。最近は六〇〇〇戸の実績をふまえて理解がでてきたが、それでもいろいろ条件がある。少し手間取っているうちに、ディベロッパー(大手土地開発業者)や不動産屋が即金で土地を買っていってしまう。売り手に文句を言っても後の祭りだ。売り主だって、一日も早く売りたいのだ。それをコーポラティブだからと待ってくれるほど、世間は甘くない。

 事業企画者が先に土地を買う手もあるが、もし入居者が集まらなかったら一巻の終りである。そんなリスクを抱えてまで、手間のかかるコーポラティブをやろうという人はいない。普通は、入居者が集まるまで土地の売り主に待ってもらうことになり、そうこうしているうちに、即金で購入してしまう業者が現われたら太刀打ちできない。

 バブル崩壊後は、なかなか売れない土地も出てきたため、見通しは明るくなった。しかし、マンション適地で価格も安い土地は、やはりマンション業者の独壇場だ。残るのは、不整形で使いにくかったり小面積だったりして、業者が手を出さない土地ということになる。

土地購入を肩代わりしてくれる公団も忙しい

 融資を受けないで土地を即決で手当できれば、コーポラティブの土地探しもはるかに容易になる。次の三つのケースがある。

 一つは、土地購入費のすべてを手持ち資金でまかなえる場合。つまり、お金持ちだけが集まるケースだ。

 二つは、地主さんを事業に巻き込む場合。最もありうるのは、地主さん自身が入居者の一員になるケースだ。

 最後は、誰かに土地購入を肩代わりしてもらうことだ。

 最初の二つのケースならば、土地の手当は容易だ。しかし特殊なケースだから、幸運な例外ということになる。では、最後の可能性はどうだろうか。

 例えば、後でマンション建設を発注するから、土地を先行取得してくれと建設会社に頼む方法がある。しかし、肩代わりした会社は、入居者の死亡などで事業がストップした時には損失を負うかもしれない。簡単に受け入れるというわけにはいかない。

 最も頼りになるのは、住宅都市整備公団が土地購入を支援してくれるグループ分譲制度だ。昭和五〇年代にコーポラティブが流行ったのは、公団の支援によるところが大きい。公団は土地購入を肩代わりしてくれるだけではなく、万一、途中で辞退者がでた場合は、公団分譲住宅として販売してくれる。これは、参加者にとって大きな安心だ。しかし、公団と参加者の双方の手間が大きすぎることもあって、しだいに扱う数が減っている。

 結局、土地問題が、停滞の一つの理由になっているわけだ。

途中で空家がでたら大変だ

 うまく土地を取得できたとして、次に待ちかまえる難題は、途中での組合員の脱退によるリスクである。土地の取得から建物の完成まで、一年半から二年という期間がかかる。その間に、経済変動があったり、組合員の転勤や死亡などがあったりして空家が発生する。

 土地を購入している以上、事業の中断は難しく、代わりの入居者を捜すために大変な苦労を要する例が多い。空家募集が容易な好立地は、ディベロッパーが買いたがる土地だ。そんな土地は、コーポラティブにはなかなか回ってこないし、買えたとしても空家も怖いという堂々めぐりに陥る。

 公団のグループ分譲でも、空家の入居者を募集したところ、なかなか売れなくて困ったケースがみられる。そうすると、公団の気持ちとすれば、万一空家がでても売りやすいような、標準的な設計の建物にして欲しいということになる。注文設計できるからと、あまり個性的なものにすると困りますということだ。これでは、コーポラティブの魅力も半減だ。かといって空家も怖いということになる。


専門家はボランティア覚悟

 そんな危険を抱えつつ、かつ組合員同士の意見調整もするため、支援する専門家の負担は大きい。それに見合うだけの経費がとれればよいが、目に見えないソフトに費用を支払う感覚が薄い日本では、なかなか難しい。コーポラティブは、一度は勉強の意味もあって挑戦するが、二度目はゴメンだという建築事務所は多いのである。

 しかし、このような苦難を乗り越えて建物の完成にたどり着くと、確かに感激は大きい。これは、それなりに大きな価値がある。その感激に意を強くして、二度、三度とコーポラティブ住宅を手がける事務所もある。そんな事務所には頭が下がる。しかし、それはあくまで例外だ。それに、このようなボランティア精神に頼る活動だけでは、所詮、コーポラティブ住宅は特殊な住宅にとどまる。

 一戸建住宅ならば、建主が注文設計するのは普通のことだ。それが、マンションになると、なぜ普通ではなくなるのだろうか。例えば、車椅子で暮らせる家を造りたいという願いが、一戸建ではできてマンションではできないというのも変だ。コーポラティブ住宅は、誰もが気軽に参加できる普通の建築方式になるべきだろう。

 そのためには、これまで指摘した難題を解決しなければならない。その解決に道筋をつけたのが、「つくば方式コーポラティブ住宅」である。



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