2 地主からみた損得計算

定期借地権には長所も短所もある

 さて、街づくりにとっての意義はあっても、実際に土地の提供を決断するのは一人一人の地主である。その地主からみても、スケルトン定借事業が魅力的であることが必要だ。

 そのメリットについて、詳しくみてみよう。

 スケルトン定借事業は、地主からみると定期借地権の一種だ。そこで、まず、定期借地権による土地経営の長所と短所を整理しよう。

 第一のメリットは、空家による事業の失敗がないことだ。いったん入居者が決まると、建物は持家となる。その入居者が転居する時は、自分で次の人を探す必要がある。このため地主の負担が少ない。特に、近年は、賃貸マンションが供給過剰ぎみで空家が多い。この空家の心配をしなくてよいというのは、地主には大きなメリットだ。

 第二は、事業に資金と手間がかからないことだ。アパート経営と違って、土地を貸すだけだから多額の借金を背負うことはない。このため、地主からみて破産などのリスクが少ない事業といえよう。

 第三に、昔の借地権と違って、三〇年後または五〇〜六〇年後には、無条件で土地が戻ってくる。安心して土地を貸せるメリットは大きい。

 もちろん、メリットがあれば、短所もある。

 最大の短所は、借地の期間中は、地主は自分の土地でありながら、土地利用の自由をなくしてしまうことだ。三〇〜六〇年間という期間は決して短いとはいえない。

 もう一つは、昔の借地に比べて、相続時の土地の評価額が上がることだ。地主の権利が強まるから当然そうなるが、このため、相続税対策ができるのかという不安が生じてくる。

定借の短所を解決するつくば方式

 定期借地権の短所をほぼ解決できるのが、つくば方式・スケルトン定借事業である。

 まず、土地利用の自由がなくなる短所に対しては、「複合化」が解決の決め手になる。複合化というのは、建物の一部に、地主の貸店舗や賃貸マンションを設けることだ。場合によっては自宅を設けてもよい。これをうまく計画すれば、借地であっても地主自身が関与できる空間が広がる。



 例えば、つくば市内の第一住宅をみてみよう。一階には地主の貸事務所がつくられている。このように計算すると、土地に接した部分は地主の所有だ。二階以上を貸しているわけで、いわば「空中だけを貸した」という状態になる。このため、地主からみて、土地を手放したという実感がほとんどない。

 もちろん、このような複合化が、入居者の生活環境を悪くしたら元も子もない。第一号住宅では二階の高さに人工地盤をつくって、その下を事務所、その上を住宅というように完全に分離している。こうして、住宅の生活環境を普通のマンション以上に良好にしている。

 もともと、つくば方式の原型はスケルトン利用権であった。つまり、地主からすれば、手放すのは土地の権利ではなく、空中の人工地盤(スケルトン)を利用する権利だ。つくば方式も、これに近い形態を実現しており、今までの借地と異なり、地主の裁量権は広いのである。




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