第六章 都市に用地を生みだす


1 安い借地が消えたわけ


地主さんの悩み

 横浜の古くからの地主さんと話す機会があった。その地主さんは、借地と聞くだけで、嫌な顔をした。「戦前は、安い借地料で土地を貸していたのですよ。みんな親父に感謝していました。それが、戦後になって土地を返してくれと言っても嫌だというし、法外な立ち退き料をよこせというんです。あれだけ、昔は世話したのに感謝なんてちっともない。私たちからみれば、法律が変わったことで、土地を借地人に取り上げられたという気持ちですわ」。

 そしてこう続けた。「二度と、借地はごめんです」。

 実は、この地主さんには、定期借地権の話をしようと思ったのだが、それ以上何を言っても無駄、とりつく島もないという感じであった。

 それほど、借地に対する地主のアレルギーは強い。

 正確にいうと、土地が返ってこないのは、返還を求める正当な理由(正当理由)がないと、自動的に契約が更新されてしまうからだ。しかも、正当事由が認められるのは、借地人より地主の方が住む場所に困っているというような、切実な状況がないとダメなのが実情だ。通常、そんなことはありえないから、二度と土地が戻ってこないということになる。

土地を求める人にも不利

 では、このことは土地を借りる側からすると、よかったのだろうか。

 確かに、昔からの借地人は手厚い保護を受けられる。しかし、戦後になって、新しく土地を借りたいと思う人にとっては、むしろ不利になっている。誰も、土地を貸してくれないからだ。

 そのうちに、新しく借地にする時には、土地の値段の五〜七割という権利金をとることが定着した。地主からみれば、二度と返ってこない土地だから、売ったのと同じくらいのお金をもらわなければ割に合わないということになる。

 結局、借地人の保護強化で守られたのは、昔からの借地人だけということになる。地主も、そして新しく安い土地を求めようとする人も、ともに損をしたといえるかもしれない。

定期借地権の登場

 このような状況を見直そうと、平成三年に借地借家法が改正された。そこで、新しくできたのが定期借地権だ。これは、最初に決めた借地期間が終ったら、正当事由を問うことなしに、無条件で土地を返すというものだ。地主に有利になったわけだが、その代わりに権利金が安くなり、安い借地を求める人にとっても朗報となった

 この定期借地権には三つのタイプがある。

@一般定期借地権
  最も一般的なタイプ。五〇年以上の期間を定めて、それが終了したら無条件で土地を返すものだ。地主からみると、将来土地が戻るため安心だが、五〇年は長いという意識があるようだ。

A建物譲渡特約付き借地権
  読んで字のごとく、建物を売るという特約がついた借地権。誰に売るかというと、地主に売る。そうすると、土地も建物も地主の所有になるから、自動的に借地は終了する。この意味で定期借地権の一種になる。居住者は、その後は、賃貸住宅として家賃を払って住むことができる。なお、期間は三〇年以上だ。

 地主からみると、三〇年という期間は魅力だが、建物を買い取ったり賃貸経営をしたりする負担が将来あるため、あまり使われていない。

B事業用借地権
 店舗や事務所などに土地を貸す場合の定期借地権。期間が一〇年以上二〇年未満と短く、また期間終了後は無条件で土地を返すものだ。地主には最も抵抗がないタイプだが、住宅には認められていない。




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