6 三一年後からは「スケルトン賃貸」となる

家賃相殺契約

 三〇年後に建物が買い取られたとして、その後の家賃はどうなるのだろうか。

 入居者からみれば、家賃を低くして老後不安をなくしたいが、かといって、家賃を抑えれば地主が困る。この矛盾を解決するのが、家賃相殺契約だ。

 これは、建物譲渡金と家賃を相殺する方式のことだ。もう少し具体的にいうと、まず、建物を売ったお金を八〇〇万円としよう。居住者は一旦これを受け取るが、その全額をそのまま地主に貸し戻す。つまり、お金は実際は移動しない。そうすると、地主は居住者から八〇〇万円を借りていることになるから、毎月お金を返すことになる。一方で、居住者は地主に毎月家賃を払う必要がある。これを相殺するという仕組みだ。

 もちろん、相殺できるのは家賃の一部だが、けっこう家賃を低くできる。この仕組みは、店舗建設などでみられる、テナントが建設協力金を払う代わりに家賃を安くするという仕組みと同じものだ。

 このようにすれば、入居者にとっては、老後の家賃が安くなるからメリットだ。それだけではなく、地主にとっても、三〇年後に建物の買取り資金を準備することなく、借地権という強力な権利を解消できるという大きなメリットがある。

スケルトン賃貸だから家賃相殺ができる

 最初にお金を預ければ家賃が安くなる仕組みは、一見簡単だから現在でもありそうだ。しかし、住宅では皆無に等しい。なぜだろうか。

 その理由の一つは、修理費の将来予測が難しいことだ。簡単に家賃を相殺してしまうと、修理費がかかった時に地主が困る。しかも、やっかいなのは内装の修理費だ。風呂や流し台の交換などは、いつ必要になるか予測できないし、しかも費用が高い。それで、おいそれと家賃の相殺ができないのだ。

 店舗で建設協力金という方式ができるのは、店舗では内装もその修理もテナントが自分で負担するからだ。

 では、住宅でも、内装は入居者が負担する方式にすればよい。これを「スケルトン賃貸」と呼ぶ。つまり、スケルトンだけを借りて、内装・インフィルは入居者がつくる仕組みだ。つくば方式の秘中の秘は、三一年目からスケルトン賃貸になることだ。こうすると、すべての問題が解決できる。

 第一に、家賃相殺契約がスムーズにいく。家賃相殺の対象は、あくまでスケルトンの家賃だけだ。内装・インフィルの修理費は入居者の負担だ。

 第二に、三〇年後のインフィル価格が0円でも不都合がなくなる。入居者はそれまでに造ったインフィルを使い続けることができるから価格は無関係だ。

 第三に、内装の修理が入居者責任となることによって、入居者に建物を大切に使う意識が育まれる。これにより、建物の維持管理もうまくいきやすい。

 つまり、スケルトン賃貸にすれば、家賃相殺契約も含めて、多くの問題を解決できることになる。

つくば方式は六〇年間のスケルトン利用権

 では、例えば三五年目に退去する時はどうなるのだろうか。もちろん、家賃相殺で預けた八〇〇万円(建物譲渡金)の一部は戻ってくるが、インフィルを除去し、スケルトン状態に戻すのが原則だ。そして、六〇年後(または五〇年後)になると八〇〇万円もゼロになり、居住者のすべての権利が終了する。

 つまり、つくば方式を簡単にいえば、「スケルトンを六〇年間(または五〇年間)利用する権利を購入し、自由にインフィルを設置して住む方式」だ。そして、途中で退去する場合は、残り期間に応じてスケルトンを売ったお金が戻ってくる。

 一見複雑なつくば方式の仕組みも、こう考えるとわかりやすい。複雑さは、スケルトン利用権そのものが法律にないため、現在の定期借地権を応用して実現するために生じたものにすぎないのである。

 このようにして、定期借地権マンションが抱える問題をほぼ解決できる。居住者にとっても地主にとっても、安心で魅力的な住まい造りが確立したわけである。

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