4 新・永住型マンションの提案

永住型マンションの条件

 以上のような閉塞感の中で、一人一人の生活設計にとっても、都市政策にとっても、これからは老後まで住み続けられるマンション、つまり「永住型のマンション」を求めることが飛躍的に重要になっている。その条件を整理してみよう。

@便利な場所
  店舗などが近くにあり、徒歩でも生活できる立地の良さが必要だ。さらに、レジャー施設や図書館、病院や福祉施設などがあればいうことはないだろう。

A広い住宅
  若い頃から住み続けるのであれば、最低でも八〇平方メートル以上。できれば一〇〇平方メートル以上の広さが欲しい。もし将来、独り身の高齢者になって広すぎるというのであれば、スペースを半分にして、残りの半分は人に貸したり売ったりできるような仕組みのマンションがあれば画期的だ。

B適正な戸数

 住人のマンションへの愛着を増すような建築上の配慮が大切だ。例えば、二〇戸程度のまとまりに建物が分かれていると、互いに顔見知りになりやすく、コミュニティ形成への意欲も高まり、建物の管理もうまくいきやすい。

C室内の自由度

 例えば、老後に車椅子生活になっても、簡単に改造できるような建物の構造をもっていることが重要だ。手摺り一つ付けるのに困る建物では、永住型とはいえない。

D長期に使える耐用性

 長期に建物が使えるように、耐震性や耐用性という面で十分に高い性能をもっていることが基本だ。加えて、長期にわたる修理計画などがキチンとたてられ、管理体制がうまくいっていることが重要になる。

 もし、このような条件を満たすマンションが実現できれば、郊外からの住替え需要を吸収して資産価値も高まる可能性が高い。良好なコミュニティが維持されるため建物の管理も円滑にすすみ、長い間、安心して住み続けられる住宅になるだろう。


所有から利用への転換

 もっとも、このような高品質なマンションの価格は高い。良いのはわかるが、買えないということになる。

 これを解決する方法が、マンションの所有権ではなく「利用権」を買うという発想だ。利用権とは、住宅を一定期間だけ利用する権利のことだ。期限後は無条件で返還するが、その代わりに三〇年程度の利用権であれば、相当安く購入できるだろう。こうすれば、高品質マンションの価格を、サラリーマンが楽に買える程度に下げることができる。

 ただし、期限付きの権利だ。自分の世代は安心して住めるとしても、土地の値上がり益を手にすることはできないし、子供に資産として残すこともできない。

 このようなライフ・スタイルは、果たして受け入れられるだろうか。

 結論はイエスだ。というのは、流動層にとっては、自分の世代が安心して暮らすことができれば、必ずしも子供に住宅資産を残す必要はないからだ。子供は子供で同じように、安くて質の良い利用権住宅を求めればよい。

 そして、このような価格の安い住宅が実現すれば、お年寄りだけではなく、若い人も好んで住むようになる。場合によっては、親子が同じ棟の別住戸に住むということも可能だ。いろいろな世代が混ざり合ったコミュニティが自然にでき、成熟社会における都市住宅としての魅力を確立できるだろう。

 新しい住宅双六は、このような「所有から利用への転換」による住宅価格の低減によって、初めて完成するのである。




希望の星―つくば方式マンション

 もちろん、利用権という仕組みは日本にはない。それに、三〇年後に追い出されるのでは、老後の安心感も中途半端かもしれない。

 そこで、利用権の良さを取り入れつつ、実際の住宅市場の中で成立する方法が必要だ。それが、私たちが開発し実現するまでに至った「つくば方式マンション」(正式名称、スケルトン型定期借地権マンション)である。これは、高品質で室内の自由設計が容易な建物を、土地の期限付きの借地にして建てるものだ。こうすれば、安い価格で、先の永住型マンションのすべての条件を満たすことができる。

 マンション派にとっても、そして、老後になって一戸建からの転居を考えている人々にとっても、希望の星の誕生だ。詳細は、第2部でじっくりと紹介しよう。

 「つくば方式マンション」が、今後、どの程度普及するかはわからない。しかし、もし普及に失敗したら、私たちの二〇一〇年は、郊外の一戸建と都心マンションの同時スラム化という二重苦にさいなまわされる。日本の二〇世紀は、あり余る資金力を有効に生かすことなく、無軌道にスプロールした街という壮大なツケを残して終るのである。

 「つくば方式マンション」という希望の星にかけたいと思う。幸いなことに続々と事業計画が発表され、普及の兆しがみられる。多くの方々が共感すれば、新しい住まい方をテコとして、ゆき場のない現状から脱却し、魅力豊かな街づくりへと向かうのも夢ではないと思っている。



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