3 マンション・スラム化の不安

マンションは仮の住まい

 新しい住宅双六の鍵の一つは、便利な場所にあるマンションだ。しかし、従来のマンションは、建物の質が低い。狭くて地震の不安もあるといった現状では、誰も老後に住み続けようとは思わないだろう。では、なぜ、質の低いマンションが多いのだろうか。

 マンション購入者の話を聞いてみよう。

「三〇歳代の収入だと分譲マンションしか買えないですよね。もちろん、面積が狭いので、子供が中学生になったら広い一戸建住宅に買い替えるつもり。その間に少しでも値上がりしていたらいいですね」

 三〇歳代で購入する人のほとんどは、本音は庭付一戸建。だけど高いから当分はマンションに住むという「仮住まい意識」が一般的だ。供給業者も心得たもので、初めて持家を買う人(これを一次取得者という)に向けては、面積は狭くとも、とにかく買える価格に抑えようとする。

 既存のマンションの圧倒的多数は、面積が七〇平方メートルに満たない狭いマンションである。八〇平方メートルを超えれば、子供が成長しても住み続けられるが、そのような広さのマンションはひと握りだ。

 それでも、本当に「値上がりを待って売る」ことができるだろうか。

 もしかしたら、二〇一〇年の前に、そのようなチャンスが一度はあるかもしれない。しかし、人口減少の時代になれば、売りたい人よりも、買いたい人の方が少なくなるのは前述した通りだ。中古自動車と同様に、売る時は値段が下がるのが当たり前と思う必要がある。


権利が錯綜するマンションのスラム化

 読者の中には、「便利な場所ならば地価が安定的に推移するといったじゃないですか。便利な場所ならば、狭い面積のものだって大丈夫でしょう」と思う方がいらっしゃるかもしれない。しかし、その期待を打ち砕いたのが、先の阪神淡路大震災での経験であった。

 つまり、分譲マンションでは、建物が壊れた時の修理や建替えがうまくいかないのだ。もし、マンションを簡単に更地に戻せるのであれば、土地価格を建物から切り離して評価することができる。しかし、マンションの土地は個人個人の権利が錯綜する。居住者だけではなく、銀行の抵当権などもあって合意形成が難しい。

 簡単に更地に戻せない以上、マンションの価値は土地にはない。あくまで建ったままの状態での、住宅としての「使用価値」にあるとみるべきだ。仮に立地がよくても、建物の質や管理面での高い水準を保っていなかったら、それはスラム化の危険をはらむマンションなのである。

 例えば、いつかは転売しようと思う人が多いマンションでは、居住者のマンションへの愛着が乏しい。しかも、建物の維持管理にも熱心ではない。しだいに、マンションの生命線ともいえる維持管理が荒廃し始める。定期的な建物の修理が十分に行われなくなるとアウトだ。いくら立地がよくても老朽化によって使用価値の低下が起きる。

 一度、そのような評価を受けると、後は坂を転げ落ちてゆく。若者の人口が減る時代とは、このような管理状態の悪いマンションが敬遠されるということだ。資産価値は急落し、ますます管理が荒廃することになる。

 具体的にいえば、住宅の広さが六〇平方メートル未満と狭く、居住者同士の合意形成が難しい大規模マンションで、住人は管理組合に関心がなく、かつ建物に高齢者への配慮がないところは、まず間違いなく築後三〇年ほどでスラム化の危機を迎える。




上がりを失う住宅双六

 さて、郊外の一戸建もあぶない、都心のマンションもあぶない、となれば、我々はいったいどこに安住の地を求めればよいのだろうか。

 もちろん、「便利な場所の一戸建」や、ひと握りの「高級マンション」ならば問題は少ない。しかし、どちらも価格がべらぼうに高く、普通のサラリーマンには高嶺の花だ。普通は、先の二つの選択を余儀なくされる。つまり、一戸建を求めるならば、不便を我慢して郊外に住む。逆に利便性を求めるならば、一戸建はあきらめて狭いマンションを買う。問題は、この二つが、いずれも老後に住みにくい場所になりつつあることだ。

 私たちの住宅選びは、結局、宙に浮いたまま行き場を失っている。

 都市化・サラリーマン化の進展の中で、それに相応しい家づくり街づくりを怠り、都市を郊外にスプロールするままに放置してきたツケが、いま、噴出しているのである。



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